【専門家にきく!】ベトナム不動産の投資における法規制

工藤拓人弁護士|弁護士法人キャストパートナー、CAST LAW VIETNAM代表。日本国弁護士、ベトナム外国弁護士。2008年東北大学法学部卒業。2010年神戸大学法科大学院卒業。11年に弁護士登録し、弁護士法人キャストに参画。以来、日系企業の中国・ベトナムにおける進出・運営に関する法務のサポートを行う。2014年よりベトナムに赴任し、社内のベトナム人弁護士とともに日系企業約200社に契約書作成や労務、不動産その他ベトナムにおける法務支援を幅広く行っている。
編集部
ベトナムの不動産マーケットが外国の投資家からも注目されるようになりました。現状でどんな物件が建てられているのでしょうか?
工藤弁護士
ベトナムの不動産市場過去数年、急速に活発化しているのは事実です。これは、ベトナムの経済発展に伴い新しい住宅を購入できる層が増えてきたことが背景にあります。これに加え、2015年7月1日に不動産事業法、住宅法が新しく施行され、外国人・外国組織に対する規制も緩和されました。これにより、外国人でも不動産が購入できるようになったため、ディベロッパーは、ベトナム人富裕層に加え、外国人をターゲットとした物件の販売を始めました。
編集部
外国人に対する規制緩和がされ、外国人による購入戸数も増えているのでしょうか。
工藤弁護士
外国人や外国組織の購入意欲も高いのですが、そもそもの外国人の購入比率上限があるだけでなく、ベトナム人富裕層の購買意欲が上回っていることもあり、立地の良い高級物件についてはベトナム人富裕層が多く購入しているのが実情です。なお、戸建て物件も増えていますが、現状では多くの物件はコンドミニアムと呼ばれるアパートメントタイプが占めています。
編集部
現状のベトナムの政情はどのような状況ですか?
工藤弁護士
ベトナムは、1945年9月2日に独立して以降、ベトナム戦争等もありましたが、南北統一後から共産党による社会主義政策は続いており、政情は安定しています。1986年からのドイモイ(刷新)政策、1995年のASEAN 加盟、1998年のAPEC加盟、2007年のWTO加盟などを各時期のきっかけにし、市場経済制を取り込みながら経済発展を続けてきました。
編集部
不動産取引の状況にはどのような傾向がありますか?
工藤弁護士
取引されている物件には、プレビルドと呼ばれる竣工前のものがかなりの数を占めます。建設中ながら、販売開始時点と半年後で2割も価額上昇がある物件も見受けられます。これに加え、さらに多くの新たな物件の建築計画や販売が進められており、さらに続々と建築中のコンドミニアムが市場に出てくることから、販売市場や賃貸市場は今後数年で大きく変動することでしょう。
編集部
社会主義国ベトナムで、外国人も土地が持てるでしょうか?
工藤弁護士
ベトナムには特有の「土地使用権制度」があります。私人(企業を含む)が土地を所有することを認めず、「土地は全人民の所有に属する」と明確にしています。ベトナムにおいて外国人を含む私人が不動産投資をする場合、土地そのものの所有権を取得することはできず、原則として、土地の使用権を取得することになりますので注意が必要となります。
編集部
外国人がベトナムでコンドミニアムなどを住宅として購入する際、どのような条件を満たしていればよいのですか?
工藤弁護士
住宅法では「ベトナムへの入国が可能な外国人は住宅を購入することができる」と規定しています。この規定では定義する「外国人」について、「居住者と非居住者の区別」がなされていません。日本国籍者の場合、ビザ無しでの15日間滞在が認められていますので、旅行者がいきなりベトナムにやって来て「物件を買いたい」と希望すれば、制度上では可能です。
編集部
外国人投資家がどんどんベトナムで不動産を購入することも可能になりそうですが実際はどうなのでしょうか?
工藤弁護士
はい。しかし、ある外国人が「ベトナムの住宅を購入する」と希望しても、国としては投機的な売買を避ける必要があります。そのため、多数の住宅を購入する場合には住宅目的とは見なされず、事業目的として不動産取引業者としての起業が必要になりますが、事業目的の場合は外資企業に転売や転貸事業が認められていません。現状では「物件を買って、自分のものにしてから貸す」という住宅法で認められている条件であれば貸し出しができています。

そのほか、地域的な制限があります。外国人は商業住宅の建築投資プロジェクトにおいてしか住宅を所有することができません。

編集部
ベトナムの経済成長がめざましい中、企業が物件を購入し、現地での資産として持ちたいといったケースでは、どんなことに気をつければ良いですか?
工藤弁護士
先述のように「個人が買ったものを誰かに貸す」ことは許されているのですが、外資企業などの外国組織がコンドミニアムなどの物件を所有しても、「従業員の居住(社宅)の目的」でしか所有することができず、第三者に貸すことは住宅法上認められていません。また、物件の購入企業はベトナムで設立された法人や支店等であることが前提です。日本など外国にある企業が直接、ベトナムの物件を買うことはできません。
編集部
外国からの投機買いが増えたら、不当に不動産価格が上がる懸念もあります。政府として何か制限はかけているのでしょうか?
工藤弁護士
外国人や法人による物件の買い占め、それによる不動産の高騰を防ぐため、いくつかの制限が存在しています。例えば、コンドミニアム(マンション)では、建物1棟(開発規模により、ユニット、ブロック等の場合あり)当たり、外国人の所有戸数は総戸数の30%を超えてはならないという決まりがあります。また、別荘・連結住宅等を含む個別住宅(いわゆる一軒家)の場合は、一つのWard (坊)レベルの行政区画内で開発されたプロジェクト当たり、外国人所有戸数は当該プロジェクトの総戸数の10%または 250 戸までのいずれか少ない戸数まで、と決まっています。
編集部
戸数制限があるとなると、外国人保有の物件とベトナム人保有の物件で価格差がでることがあるのでしょうか?
工藤弁護士
はい、実際の販売状況を見てみると、外国人向けユニット枠の方がベトナム人向けより高い価格を付けていることが多いです。絶対量が少ないため、人気のある開発物件の外国人枠はあっという間に埋まるようです。
編集部
ベトナム人枠で購入された枠を外国人が譲渡を受けるといったトラブルは起こらないのでしょうか?
工藤弁護士
現状では、物件の購入者の大半はベトナム人ですので、外国人比率が上記の割合を超えるケースは多くないようです。しかし、人気のある物件など前述のような制限を超えそうなプロジェクトで、物件を欲しがる外国人に対し、「売買契約ではなく長期リース契約を締結しているケース」が過去にあり、購入者がそれに気づかずに署名したといったトラブルもありました。
編集部
どうすれば防げるのでしょうか?
工藤弁護士
プロジェクト単位で外国人の保有比率が上記の割合を超えているかどうかなど、ディベロッパーに問い合わせて確認することをお勧めします。本来は外国人所有比率などが客観的にわかる公開制度があればよいのですが、現状ではこのようなものができていない状況です。
編集部
そのほか、外国人が物件を手に入れるに当たって、気を付けておくことはありますか?
工藤弁護士
外国人や法人が住宅を所有することができる期間の上限は、証明書の発給を受けた日から50年です。なお、必要な場合には、最大50年間、1回延長することができます。なお、外国人がベトナム人(海外に住んでいるベトナム人を含む)と結婚している場合には、50年までといった制限の対象にはなりません。
編集部
法人による所有はどうでしょうか?
工藤弁護士
法人など外国組織が住宅を所有できる期間の上限は、外国組織に対して発給された投資登録証明書または企業登録証明書に記載された期限とされています。投資登録証明書の期間が延長された場合には、住宅を所有できる期間もそれに合わせて延長されますが、延長は1回までとされています。
工藤弁護士
また、現状は新住宅法の下で建築された物件について不動産登記に関する証明書(通称ピンクブック)が出ていません。こちらも政府の運用が定まっていないという点で今後の動きを注視しなければなりません。権利者が誰かを客観的に判別する指標となるものですので、これがさらに遅れるようであれば、権利者の真偽をめぐるトラブルが多発する可能性もあります。
編集部
ある企業が建物を購入し、賃貸または転売を希望した場合、取り組みは可能ですか?
工藤弁護士
外資企業など外国組織は住宅を購入し、所有することが可能ですが、法律上、第三者に貸すなどして賃料を得ることはできません。さきほどお伝えしたように、不動産取引業者としての企業設立したとしても不動産事業法上、購入した物件の第三者への賃貸や転売業務は外資企業には認められていないのが現状です。
編集部
サブリースは可能でしょうか?
工藤弁護士
はい、建物を借りて誰かに貸すといったサブリースについては外資企業でも登録が可能です。このように不動産事業は外資企業への規制が多くあります。M&Aで物件を所有し包括的なライセンスを持っている企業を買収するか、自社でディベロップメントすれば不動産事業としてその物件を賃貸、販売することが可能なため、資金力がある企業はそのような方法で業務を行っています。
編集部
すでに誰かが所有していた中古物件の売買については何か制限があるのでしょうか?
工藤弁護士
中古住宅の場合、外国人は、外国人や外資企業からのみ購入が可能とされています。ベトナム人からの中古物件の購入は認められていません。もしベトナム人から「中古物件の購入」を持ちかけられた場合、権利を取得することができないという可能性が高いので、そもそも詐欺かもしれません。
編集部
外国人比率が制限戸数を超えないようにするための措置ですね。
工藤弁護士
はい。ただ、現在はプレビルド(竣工前)で、不動産登記されているものではなく契約上の権利のみの場合があります。その場合には、ディベロッパー側の協力が得られれば、契約上の権利をベトナム人から譲り受けることも実務上できています。個別事情によってリスクもある取引ですので、専門家のアドバイスを受けることをおすすめしています。
編集部
ベトナムでの不動産投資は法令をしっかりと理解したうえで進めていくのが非常に重要ですね。
工藤弁護士
ベトナムでは法令の改正が頻繁に発生し、法令と実務が乖離していることも多くあります。ここでお話したことも、随時変わっていく可能性も高く、地域によって違う運用をされている可能性もあります。私もベトナムに住んでおりベトナム不動産に魅力を感じている一人ではありますが、不動産の取引を考えられる場合は、その都度その都度慎重に確認しつつ進める必要がありますので、その点はご注意いただきたいです。
編集部
本日はインタビューありがとうございました。
工藤弁護士
ありがとうございました。

取材協力

工藤拓人弁護士
弁護士法人キャストパートナー、CAST LAW VIETNAM代表
CAST LAW VIETNAM

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